■鷹嘴直個展■

日時

2002年9月7日(土)〜9月16日(月)
 会期中無休 9:00〜17:00 入場無料

場所

ギャラリー六日町

  • 〒949-6600 新潟県南魚沼郡六日町140-2
  • TEL 025-773-6610
  • 後援

    六日町教育委員会/南魚沼郡美術協会


    鷹嘴直の個展に寄せて −曖昧さ(ambiguity)の美学−

    印象派の巨匠モネは、光の相の下で、田園の積み藁やルーアンの大聖堂の実在感を画布空間に捉えようとした時、瞬時刻刻にその外貌が変化するのを見て、こうつぶやくのだ。《それが逃げてゆく…》と。

    鷹嘴直はモネではないが、対象の実在感を光(photos=フォトス)の相の下に捉えるという点では印象派の美学と通存する。彼の造形表現のメディア(媒体)が“写真”(フォトグラフ)だからである。たぶん、彼の写真機のレンズが向けた被写体は逃げはしないだろう。写真機のメカニズムは、対象の瞬時相を捉えることにかけては人間の肉眼の比ではないのだから。確かに鷹嘴直は対象の実在感を捉えることができる。だが、彼自身は写真作品それ自体に充足してはいない。確かに写真もまた光の絵画としてアートの分野で自立してはいるのだが、もう一つ食い足りないのだ。

    写真に欠落するのは、彫刻の物質感、量塊感、三次元性であり、絵画表現の身振りの痕跡、マティエール、そして色彩と形態による空間構築であろうか。そこで鷹嘴直は写真の世界から越境を試みるのだ。写真を携えながら…。こうして彼の作品は、先ず自然界のドキュメントから出発し、木板や合成樹脂板と写真のコラージュを経て、画布に油彩、カラーコピー、テグスを三層構造化した造形表現に至るのである。近作の「FADE」シリーズ。ここには写真と絵画とものとの複合体の幸福な局相がみてとれる。越境の果てに辿り着いた新しい地平なのだ。だがそこに展開するのはタイトルが示唆するように、色彩も形態も映像もぼかされた不透明で曖昧な画像世界でしかない。しかしながら、この曖昧さ(ambiguity=アンビギュイティ)こそが鷹嘴直の造形表現の真意に他ならない。曖昧さとは世界の多義性であり、いわばわれわれ人間の存在のありようではないのか。この実人生にも絶対に確かなものは何ひとつない。思想も言葉も愛も行動も、そして生命も。その曖昧さをこそわれわれは愛さずにはいられないのだ。鷹嘴直の造形表現がそのことを示唆しているように思われる。

    林 紀一郎(美術評論家・池田20世紀美術館長)